きらめくフライパン

一目惚れだった。
無名の画家の描いた台所の油絵。何の変哲もないその絵に、私は強く魅力を感じた。
この絵が欲しい！値段を確認すると、なんと４０万。
驚く。これほどの名画が、たった４０万でいいのか？
私は画家に５０万支払った。この絵にはそのくらいの価値がある。

それからしばらくして、私のもとに１枚の絵画が届けられた。
送り主は台所を描いた画家。同封してあった手紙にはこう書かれていた。
『申し訳ありません。先日買っていただいた台所の油絵ですが、使ったフライパンを絵の中に戻すのを忘れていました』
言われてみて気が付く。あの台所の油絵には、フライパンが描かれていなかった。
届いた油絵を見る。そこにはフライパンだけが描かれていた。
素朴だが魅力に溢れる、きらめくフライパン。
その粋な計らいに、私はすぐに画家へと連絡を取るとパトロンになる事を申し出た。