走馬塔

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子供たちで賑やかな遊園地の一隅に小さな塔がある。円筒の胴に三角屋根の塔を訪れるのは高齢者ばかり。清潔な身なりの執事に迎えられ「ようこそ」と馬に案内される。馬というのは両肘置きの椅子に大きな車輪の車椅子である。馬に座った客はしずしずと塔の内壁に向かう所まで押される。壁は真白。客が十人ほど壁に向き並ぶと「そろそろ始まります」と照明が暗くなる。塔の内部が回転するように壁が動く。壁が左から右へ走るなかに映像が浮かぶ。映像はどれも懐かしい風景だが見る人によって異なる。ある人には戦後の荒廃した街、ある人には高度成長の都市が映る。次々と過去の光景が移り変わる映像に客はうっとりと食い入るように見る。三十分ほどだが客は堪能した様子。照明が明るくなり一人ずつ執事に押されて出口に向かう。まれに眠ったままの客がいる。二十代の若い客が間違って入って来て、彼には懐かしい風景がないため白い壁を見て眠ってしまうのである。
ファンタジー
公開:24/03/23 14:13

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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