馬車馬

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夏の高い日が沈むと、煌びやかなパレードが始まった。
馬車馬が豪奢なステージをひいてくる。ステージにいるのはウェディングドレスを着た紗映だった。ほほえみ、手を振っている。俺は娘の名を叫んだ。世界一綺麗だ。涙が溢れて止まらない。結婚には早い気もするが、生きていれば二十三歳、そういうこともあっただろう。
お盆だけの特別なパレードだった。死者が園内を練り歩く。紗映のあり得たかもしれない未来を見ていると、胸が張り裂けそうだ。
妻が獣のような咆哮を上げている。それを慰める余裕が俺にはない。紗映だ、紗映がいる……。観客はみな嗚咽し泣き崩れ、地獄のような有様だった。
パレード直前は、期待に胸を膨らませ過ごすのだが、いざ始まってしまうとダメだ。辛くてどうしようもない。
もう二度と来るまい、と思う。しかし明日になれば俺は黙々と溶接をして、妻はひたすらレジを打ち、夏のパレードまでの日々を馬車馬のように働くのだ。
ファンタジー
公開:24/03/29 16:00
更新:24/04/13 12:42

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