「近道は道程の喪失。苦もなければ楽もないさ」と猫が笑った

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薄暮の遊園地で迷路に迷い込んだ。同じ所をぐるぐる回り、疲れて泣いているとダミ声が落ちてきた。
「迷子かい?」
壁の上に三日月の口でニタニタ笑う猫がいた。
「誰?」
「猫さ。何度も私の前を通っただろう」
「全然気付かなかった」
「人は見たいものしか見ない。見ないは無いと同じさ」
「私、外に出たいの」
「なぜ?」
「暗くなってきたし」
三日月がピカッと光る。
「いくら歩いても出られないし」
「出口まで歩けば出られるさ」
「どっちが出口?」
「それはお嬢ちゃんが決めることだ」

意地悪!私は怒鳴った。
「もう嫌!何でも良いから早く出して!」
猫は三日月を消し、尻尾で自分の下の壁を指す。
「それで良いなら、この道を行けば一瞬で出口だ」
「道なんて無いじゃない」
「見なければ無いと同じさ」
猫がニタニタ笑う。私は目を瞑って壁に飛び込んだ。

恐る恐る目を開くと、私は老婆になり、廃墟の中に佇んでいた。
ファンタジー
公開:24/03/21 13:57
更新:24/04/21 11:03

尻野ベロ彦( 東京 )

3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。
子どもの頃「将来の夢は小説家」と言っていました。
「note」にも、細々と500字程度のショートショートを書いています。
https://note.com/sirino

【トピックス】
・第16回「1ページの絵本」入選
・第20回「坊っちゃん文学賞」佳作

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