墓場に肝試しにやってくるカップルへ

夏場、墓場に肝試しをしにくるカップルがいる。
涼を取りに来た感じではない…ただイチャつきたいだけか…辟易する。
ここに住む幽霊。それが私。
私はそんなカップルに何もしない。だが、こういう浮ついた輩が大嫌いなのが隣に住む幽霊だ。
この隣人ときたら、あの手この手でカップルを引き裂こうとする。さすがに土の中から出てきた手が足首を掴むのはやり過ぎだと思う。
でもそんな様子が面白くて、私も傍観している。
今日もまたカップルがやってきた。でもそのカップル、肝試しに来たって感じではない。
進んで幽霊を探しては、あるお墓の前で手を合わせる。
「幽霊でもいいから。もう一度お母さんに会いたい」
そう話す彼女さん。手が震えている。きっと怖いのだろう。
さすがに隣人も、この二人には手を出さない。
手を出したのは彼女の母だ。彼女の背をとん…と押し、彼の胸の中へと飛び込ませた。
今年一番の生暖かい空気が墓場を包んだ。