きらめくフライパン

彼と同棲を始めた時、私はいいフライパンを購入した。
「フライパンなんてどれも同じだろう」と彼は言ったがそれは違う。
いいフライパンで料理を作っていると、湯気の中に料理を食べさせたい相手の顔が浮かぶのだ。
私は湯気の中に彼の顔を見た。だから彼は美味しいと褒めて食べてくれた。
だけど彼は私を捨てた。新しい彼女と同棲を始めた。
一人になった私。無気力な日々が続く。
食欲なんてないのにお腹は減る。恨めしいったらありゃしない。
仕方なくフライパンを手に料理を始める。立ち上る湯気の中、浮かんできたのは私の顔だった。
思わず笑ってしまう。なんて酷い顔をしているんだろう。これが私？仕方ない。この顔を笑顔にする料理を作ってやろう。
出来上がった料理は会心の出来だ。これをもう食べられないなんて可哀そうだと元彼に悪態をついては「ざまあみろ！」と叫ぶ。
鏡を見た。相変わらず酷い顔だが、元気になった私が映っていた。