満月はファストパス

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 ピピとナナはよく星の遊園地に出かけた。
 ただピピはいつも日時を選んだ。満月の出ているときしか行かないのだ。
 遊園地のアトラクションはチケットがわりに端末を使う。ピピがそれを仰々しく空の満月に向けると「満月のプリンセスさまの御成〜」と鳴り、スタッフから「嗚呼、満月のプリンセス様」と呼ばれ、行列も並ばずに済むし、『星屑大冒険』というアトラクションではキャプテン役に自動的に抜擢される。彼女は満月の光で特別待遇を受けられる権利を購入しているのだ。
「いつもピピばかりちやほやされて。曇ればいいのに」とナナは少しつまらない。だがピピは悪天候の日を選ぶようなヘマはしなかった。

 だがとある夜。
「今日も満月のプリンセスに…って、アレ?」
 ピピは空を見て慌てていた。ナナはにやりと笑った。
「知らなかった? 今日は月食だって」
 ナナは欠けた月に端末を向けた。
「三日月のプリンセス様の御成〜」
その他
公開:24/03/17 11:59
更新:24/03/17 14:20

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