遊園地売りの少女

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辺りはすっかり暗い。少女は凍えそうな寒さの中、呼びかけ続ける。
「遊園地はいかがですか」
今宵はクリスマスイブ。皆、足早に通り過ぎて行く。

「いくらだ?」
一人の男が立ち止まった。酒の匂いがぷんぷんし、ふらついている。
「1分千円です」
「高いな」
通り過ぎてから、なぜか男は戻って千円札を少女に渡した。
「ありがとうございます」
少女は頭を下げ、
「お座りください」
と木の椅子に座るよう促した。
「目を閉じて頭も心も空っぽにしてください」
男は言われた通りにした。

すぐに男から嗚咽がもれだした。
家族で一度だけ行った遊園地の思い出が脳内に映し出されたのだ。
「パパ、楽しかった。ありがとう」
娘の声がして映像は消えた。

男の妻と娘は事故で亡くなった。それから男は酒に溺れるようになった。

目を開けると、少女はもういなかった。

「メリークリスマス、パパ」
どこからか娘の声が聞こえた。
ファンタジー
公開:24/03/18 20:42

ジャスミンティー

2023年10月から参加しています。作品を読んでいただき、ありがとうございます。

最近noteへの投稿も始めました。よろしかったら、そちらもご覧ください。エッセイ、短歌なども載せています。https://note.com/real_condor254 
 

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