世話焼きフライパン

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「きょっ…今日も綺麗だね」

真っ白な四角いフライパンに向かってぎこちなく囁く。少し噛んだし囁いているようには見えなかったかもしれないが、誰がなんと言おうと囁いたのだ。フライパンのド真ん中には「☓」のマークが浮かび、氷のように冷えていく。…やり直しか。

「…今日も綺麗だね」

少し間があってから今度は「◯」のマークがピカッと輝き、フライパン全体の熱も上がっていく。合格のようだ。口下手な私が購入した、この「世話焼きフライパン」。大切な人へ想いを伝える為、毎朝練習に付き合ってくれている。

フライパンへ流し入れた溶き卵は菜の花畑のように広がっていき、それをくるくると巻いていけば甘い卵焼きの完成だ。お皿に盛り、慎重にダイニングまで運ぶ。

「いつもありがとう。きょっ…今日も綺麗だね」

また噛んだ。そんな私に妻は微笑む。
キッチンでは、世話焼きフライパンが朝日を炒めるように煌めいていた。
ファンタジー
公開:24/03/18 20:20
更新:24/06/23 17:14
月の音色 煌めくフライパン フライパンで世話を焼いてみた

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

 

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