焼いて、炒めて、恋をして
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『修行の旅に出ます、探さないで下さい』
ガスコンロに煤で焼き置きを残し、我が家のフライパンが飛んで行った。
修行より傷心旅行に近いだろう。新入りピカピカのテフロンパンにアタック、玉砕したバレンタインデー。小雪舞う寒空に小さくなってゆく黒い影を、フライの意味が違うとも言い出せず見送った。
一ヵ月後、春風に乗って帰還したフライパンは、乙女チックな赤銅色にきらめいていた。
修行先の職人に化粧してもらったらしい。使い込んだ道具の良さというのもあるのだが、舞い上がっている最中に水を差すのも気の毒だ。手入れの油を差し、旅のほこりとメッキの跡をぬぐった。
満開の桜の様に鍋を染め、ホワイトデーにリベンジを試みるフライパンだったが、意中のテフロンパンに寄り添うスキレットの、黒々とした鋳物の肌を目の当たりにし、赤銅のメッキがガラガラ剥げ落ちた。
素朴な姿に戻ったフライパンに再び油を差し、涙の痕をぬぐった。
ガスコンロに煤で焼き置きを残し、我が家のフライパンが飛んで行った。
修行より傷心旅行に近いだろう。新入りピカピカのテフロンパンにアタック、玉砕したバレンタインデー。小雪舞う寒空に小さくなってゆく黒い影を、フライの意味が違うとも言い出せず見送った。
一ヵ月後、春風に乗って帰還したフライパンは、乙女チックな赤銅色にきらめいていた。
修行先の職人に化粧してもらったらしい。使い込んだ道具の良さというのもあるのだが、舞い上がっている最中に水を差すのも気の毒だ。手入れの油を差し、旅のほこりとメッキの跡をぬぐった。
満開の桜の様に鍋を染め、ホワイトデーにリベンジを試みるフライパンだったが、意中のテフロンパンに寄り添うスキレットの、黒々とした鋳物の肌を目の当たりにし、赤銅のメッキがガラガラ剥げ落ちた。
素朴な姿に戻ったフライパンに再び油を差し、涙の痕をぬぐった。
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公開:24/03/18 17:37
月の音色
月の文学館
テーマ:きらめくフライパン
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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