窓を描く

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街のマンションに引越した。狭い部屋。一つだけの窓を開けると隣のビルの壁。壁の灰色が五十センチの距離で視界を塞ぐ。少しでも明るくしたくて友人の画家に壁に絵を描いてもらった。壁に窓枠と窓のなかの部屋も描く。絵の部屋には若い女性がくつろいで椅子に座る。毎夜、気晴らしに窓を開けて絵の部屋を見た。
街にも慣れて近所のバーで飲んでいたら、若い女が隣に来て話したいと言う。断る理由はなく俺は話をした。彼女は俺のことをよく知っていると言う。俺は別にと言うと女は、えっ私のこと知らないの、じゃあついて来てと俺の手を取る。言われるままついて行きマンションに入る。俺の隣のマンションじゃないか。そして五階の部屋に案内される。それはいつも見ている絵の窓のなかの部屋だった。彼女は椅子に座る女。窓のカーテンをさっと開けて、よく見てと言う。窓の向こうには隣のビルの窓。開いた窓からこちらをのぞいている男、まぎれもない俺だった。
ホラー
公開:24/03/18 15:41

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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