風では鳴らない風鈴の話

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 街道に砂が混じり始めると松並木は松林へと変わっていった。その松林のあちらから潮風と共に波音が運ばれてくる。真っ白な風鈴が軒に下がった民宿が目にとまり部屋を求めた。風が吹いても風鈴は微動だにしない。
「その風鈴は鳴らないんですか?」
「はい。鳴らないほうがよいのです」
 宿の主人はポツリと答えた。
 砂に辟易しながら松林を歩く。どの松もよい枝ぶりだ。防風林なのだろう。渚は静かで、中年の男女とすれ違う程度だった。
 夕凪の刻限となり宿へ戻る。と、
 コツ・コツ
 風鈴が鳴った。まるで軽石を叩いたような音で、風鈴とは思えなかったが、確かに風鈴が鳴ったのだと思う。
 入れ違いで主人が宿を出ていく。
「鳴りましたね」
と言うと、主人は、
「今日は無いと思っていましたが、残念です。二人出ました」
と松林へ走っていった。
 仲居に聞いたところ、二人が首を括ったという。渚ですれ違った二人だったようだ。
ホラー
公開:24/03/16 10:04
更新:24/03/16 14:20

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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