今夜はごちそう

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地元のさびれた遊園地の、小さなメリーゴーランド。妻が見守る中、私は三歳の娘と乗ることにした。
「間もなくです」
馬にまたがったまま待っていると、次第に乗客が集まってきた。ただ、皆一様に表情が硬い。子連れの人も、一人もいない。
不安になって妻を探したが、いつの間にか観客が増えていて、見つけられなかった。
その時、馬が一斉に走り出した。
左右の人は中腰で立ち上がり、手にした鞭で馬を叩き始める。まるで騎手のように。いや、まさに騎手だ。
私も慌てて腰を上げる。首からさげたフリーパスを外し、その紐で必死に馬を打った。
私たちの馬は集団に食らいつき、並び、抜かし……。気付いた時には一着でゴールしていた。
どよめきが渦巻いたかと思うと、騎手も観客も、いつの間にか姿を消していた。
娘を抱いて馬を降りると、散乱した馬券の中に、笑顔の妻が立っていた。
「今夜はごちそうね」
その手には、大穴馬券が握られていた。
ファンタジー
公開:24/03/16 01:22
更新:24/03/16 17:18

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』をつむぎ書房より出版
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテストにて「かぞくしんぶん」が特別賞に選ばれる
2024 第20回坊っちゃん文学賞にて「鯉のぼり」が佳作に選ばれる

発表し合える環境に感謝します。

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