ほどほどの散歩

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田中さんは、野山を歩くのが好きだ。
それも荷物をあまり持たず、「ほどほど」に歩くのが好きだった。
その日も、道具や物を少なめに、すき間のあるバックパックを背負っていた。

彼は川辺にさしかかった。
ふと、静かな水面で何かがジッと、彼を見ているような気がした。
のぞきこもうとして、足をすべらせて、川に落ちてしまった。
足が立たない。意外に深い。まずい、と彼は思った。

と、ふいに体が浮いて、あおむけに水面に浮かんだのだ。
彼の背負っているバックパックが、浮き輪のような役目を果たしたのだった。

沈むでもなく、泳ぐでもなく。
空中と水中の、境目の水面に彼は浮いていた。
その間じゅう、じっと何かに見つめられている気がした。

「おーい」
田中さんは何度も声を出し、それに気づいた通りがかりの釣り人に、助けられた。

岸辺で服をふいている時、彼はこんな声を聴いた気がした。
“ほどほどで、よかったな”
ホラー
公開:24/03/10 19:57
更新:24/03/10 22:36
半分、実話です 父親の話 渓流

tamaonion( 千葉 )

雑貨関連の仕事をしています。こだわりの生活雑貨、インテリア小物やおもしろステーショナリー、和めるガラクタなどが好きです。

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