空き瓶と蓋

１３年前の今日の記憶に蓋をする。そうすれば、あの時の恐怖を忘れられる。思い出さずにいられる。
私達は子ども達がトラウマで苦しまないようにと可能な限り、その記憶に蓋をした。
「あの頃は小さかったから、よく覚えていない」
「ショックが大きすぎるから、心を保つ為に記憶が失われた」
当時子どもだった彼ら彼女らはそう答える。
皆、本当に大きくなった。逞しくなった。
私達がきつく閉めた蓋を、自力で開けられる程に。
彼ら彼女らは当時の記憶を思い出す。
涙にくれるも、自ら立ち上がる力を持っていた。
そして、やるせない思いを瓶の中へと吹き込み、蓋をする。
その空き瓶を、海へと流した。
海の向こうへと消えていく空き瓶。
公害にならないかと少し心配していたが、空き瓶はその後、１つとして見つかる事はなかった。
思いの詰まった空き瓶はどこに行ってしまったのだろう？
悲しみの色に染まった海を見て、あの時を思い出す。