死ビール

どうやら今日、儂は死ぬらしい。
突如儂の病室に現れた死神。いつ命を奪われてもおかしくない。
それなら死ぬ前にビールが飲みたい。ビール片手に皆と腹を割って話したい。
そう連絡すると親族・知人が皆、死ビールを持って見舞いに来た。
死ビールは生ビールの逆。何の旨味もないお供え用の酒だ。
儂はまだ死んでおらん！不謹慎な奴らめ。
大量の死ビールが病室を埋め尽くす。そっとプルタブを開ける死神。一本なら飲んでもバレないと思っているのか？
二本…三本…死神は次々と死ビールを飲んでは酔い潰れた。
親族・知人は死神が眠った気配に儂をそっと病室の外へと運び出す。どこへ連れて行くつもりだ？
「隣町の病院で高度な治療を受けてもらいます」
隣町と言えば確か、山を挟んだ向こうにある、桜が綺麗なあの病院か。
皆と桜を囲んで飲むのもまた一興。早速、死神を置いて峠を越えるとしよう。
…今、ヤマを越えると長生きできそうだしな。