クライマックス症候群

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長年交際してきたパートナーから、高層階にあるレストランの食事に誘われた。もしかしたらそろそろプロポーズされるのかもしれない。期待と緊張と不安を抱えながら、約束の日を迎えた。
「今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
食前酒が運ばれてくるや否や、周囲の人々を巻き込んだフラッシュモブが始まったので、予感は確信に変わる。ひと通り踊ったパートナーは私の前にひざまづき、指輪の箱を開いて見せた。そこには、「別れよう」と書いたおしゃれなカードが仕込まれていた。あまりにも素敵過ぎて、めまいがした。
「こんなに素晴らしい日は、きっと後にも先にもないわ……」
「良かった! 喜んでくれて!」
私たちは、クライマックス症候群という診断を受けている。物語の最高潮を迎えると、一気に興味を失うという病だ。
「最後の食事、気持ちがさめないうちにいただきましょう」
「お互いの門出に乾杯!」
その他
公開:24/08/04 11:19

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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