「新月」「密室」「遺失物」
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満月を見ると狼男は変身するといわれているが、新月を見た狼は人に変身するものだ。そう言った果実商の友人から私は先月、一匹の狼を買った。アジアのはずれで山の中を散策している際に捕まえたものらしい。普段はぐうたら寝ているが、人に変身すると人が変わったように働き者になるそうだ。いくらといわれても譲るつもりはなかったが、他ならぬ君だから譲るのだ、と友人はいい、爾来狼は密室に閉じ込めている。狼人というものを見たくもあるのだが、わたしが物事を曖昧なままにしておきたいという性分もあって、踏ん切りがつかない。狼は昼の間はじっと身じろぎもせず寝ている。たまに起きて私の用意した餌を食べる。満月の晩に外に離すと、朝方まで森を散策して戻ってこなかったりする。わたしは安心する。
ある新月の夜、私はついに狼を森に離そうとした。だが密室の中に狼の姿はなかった。ただ、一塊の糞の山があった。私はその遺失物にやはり安心した。
ある新月の夜、私はついに狼を森に離そうとした。だが密室の中に狼の姿はなかった。ただ、一塊の糞の山があった。私はその遺失物にやはり安心した。
その他
公開:24/08/04 02:17
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