松尾芭蕉のグルメ旅

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太陽の陽射しがこの上なく突き刺さる、夏。
旅路の疲れか、笠が重たく感じる昼過ぎ。
ふと顔を上げれば、「氷」と記された看板。

ここは「千日」というかき氷屋。同じ旅人や、仕事の休憩がてら、職人らが談笑に集う場所。ここで一服することにした。

出てきたのは、氷山のてっぺんから溶岩のように流れ落ちる苺のシロップ。そして底には、無数の岩石のような黒豆がびっしりと敷き詰められていた。

一口頬張ってみる。匙が氷を掬うなり、ほのかな甘い香りが口元へと誘う。

幸せとはこういうことを言うのだ。日頃の疲れが癒され、一時の感動を味わうこの瞬間。そう、この一瞬こそが儚くも愛しいのである。苺の香りは刹那に消え、喉元を通る頃には次の刺激を求めている。そして今、幸福を食している実感を黒豆によって噛み締める事になるのだ。


夏色や
紅く溶けたし
幸の香


蝉の鳴き声が止まった。もう夕刻か。本日の宿を探すとしよう。
その他
公開:24/08/05 05:39
更新:24/08/05 05:50

かずま( 関東地域 )

2023/10/19に参戦した新参者です。忌憚のないコメントお待ちしております。

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