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「あっ」
岩場で海釣りをしていた私は、足を滑らせて釣り竿もろとも海に落ちた。

と思ったら、海面へ落ちる直前、何かが私を包んだ。大波が寄せ、波にのまれるかと思ったが、波は岩場まで来ることなく引いていった。ふわふわっとした感触に包まれ、ふんわりと着水した。私はすぐ前の岩に足をかけ、次の波が寄せる前に岩陰に避難し、力をふり絞ってもとの岩まで登った。

あれは泡だった。私を包んで守ってくれたものは。一瞬のことだったが、でも私には見えた。泡と、そして向こうの小さな岩に幼い弟が立っているのが。弟はシャボン玉のストローから泡を作って、それを飛ばしていた。ほんの一瞬だったが、はっきりと見えた。「ねえちゃん」と呼ぶかわいい声が聞こえた気がしたが、弟はもう消えていた。

弟はシャボン玉遊びが好きだった。
近所の川で遊んでいた七歳の夏の日、流され、翌日に下流で見つかった。あれからもう十五回目の夏になる。
ファンタジー
公開:24/08/02 19:00
更新:24/08/04 06:18

ジャスミンティー

2023年10月から参加しています。作品を読んでいただき、ありがとうございます。

最近noteへの投稿も始めました。よろしかったら、そちらもご覧ください。エッセイ、短歌なども載せています。https://note.com/real_condor254 
 

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