泡猫びより

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「旅行中、うちの猫を預かってほしいの」
スーツケースを引いた友人が持ってきたのは、ペットキャリーではなくステンレスのボウルだった。
「……冷蔵庫でいい?」
1分近く沈黙の後、意を決して訊いた。銀のボウルにもこもこ泡立ったメレンゲが、ツノをもたげて『にゃあ』と鳴いた。
「チルドルームかしら。少し手はかかるけど良い子よ。3日間よろしく」
ケーキ用の卵白を立て過ぎたらしい。卵なのにひよこじゃないんだ。って言うか、帰ったら焼くの?色々と突っ込みどころ満載だったが、傷んでもいけないので冷蔵庫にしまう。
ラップに空気穴は開けたものだろうか……?

日に一度、様子見がてら砂糖を一つまみ与え、ホイッパーで泡じゃらして遊ぶうち、友人が旅行から帰ってきた。
「この子がお世話になったわね。はい、お土産のわんこムース」
ボウルを抱えた友人が笑顔で差し出す菓子箱では、お椀に入ったムースがチョコのしっぽを振っていた。
ファンタジー
公開:24/08/02 14:12
クラフトビールコンテスト② テーマ:泡

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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