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 呼び鈴に応じて玄関を開けると、一匹のカンガルーが佇んでいた。彼(彼女?)は郵便局員の帽子とベストを着用しており、どこか使命感にあふれた、キリリとした表情をしていた。
「え、っと……」
 呆気にとられていると、カンガルーはお腹の袋からゴソゴソと封筒を取り出し、こちらに差し出してくる。「どうも」と反射的に受け取ると、受領のサインを求められた。手渡されたペンで書くが、緊張からかぐにゃぐにゃになってしまう。受け取ったカンガルーは丁寧に帽子を取ってお辞儀をし、ぴょんぴょんと、ちょっとびっくりするくらいの跳躍力を発揮して帰っていった。
「本当なんだ……」
 この地域に引っ越して一週間。地元の人間が言っていた「ここではカンガルーが郵便配達に来るからね」というセリフが、冗談でもなんでもないことを思い知った。
 あっという間に小さくなっていくカンガルーの背中。
 郵袋類。
 彼らのことをそう呼ぶらしい。
ファンタジー
公開:24/08/03 09:17

きしよしき( 日本 )

短いお話なら書けるのでは? という安直な考えからショートショートに飛びついてみれば、その奥深さや可能性に打ちのめされている最中です。
読後に何らかの余韻を残してもらえるようなショートショートを目指しています。
田丸雅智先生のオンライン講座第20期に参加させていただきました。

※プロフィールや投稿作品に使用している画像はフリー素材サイト様からお借りしています。

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