マグカップご来光

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夜明けが飲めると話題の喫茶店に来た。
営業時間は午前4時から7時の3時間。売り文句もカップルのお泊りの様な表現だ。お一人様には肩身が狭いかと思ったが、店内に入って杞憂だと気付いた。

「いらっしゃいませ。ご注文はどちらの山で?」
午前5時。間接照明のみの薄暗い店内で、ぎりぎり読めるメニュー表に目をこらす。エベレスト、K2、キリマンジャロ。世界の名だたる山が連なる中、日本人らしく富士山を選んだ。

「お待たせしました。飲み頃は5時23分です」
注文の品が運ばれてくると、テーブルがやや明るくなった。
マグカップをこんもり満たす泡。ラテアートと思いきや、それは山間に渦巻く雲海だった。
添付けの時計を見ながら待つ。青白い泡が輝きを増し、黄金に染まっていく。――午前5時23分。富士の高嶺にご来光が昇った。

二礼二拍手のち、謹んで頂く。
さすが日本一の山。飲み干して深呼吸すると、背筋がぴんと伸びた。
その他
公開:24/08/02 23:51
クラフトビールコンテスト② テーマ:泡

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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