まだ来てはダメ

俺は妻を病気で亡くした。その病気に俺も罹った。
正直、嬉しかった。これで妻のところへ行ける…俺は妻と同じ不治の病と呼ばれる病気で死ねる事を内心喜んでいた。
だが、俺は死ななかった。
偶然にも特効薬が完成してしまった。
特効薬で病を克服していく人達を見て、俺は早く死にたいと願うようになった。

ある夜の事だ。夢の中、妻が現れた。
『まだ来てはダメ。あなたは生きて』
天国にいる妻にそう言われては従わざるを得ない。それに背けば、俺は地獄に落ちるだろう…
俺は特効薬を使い、病を克服し、天寿を全うした。

天国に行くと、妻が俺を待っていた。
「うわっ！凄い！本当に病気治ってる！」
聞けば妻はこの病と運命で繋がっているらしく、来世でも必ず罹ってしまうのだとか…
だからこそ、特効薬が本物か知りたかったのだろう。
妻は満足げに頷くと俺の手を引き輪廻の輪へと飛び込んだ。
「来世もまた、一緒になりましょうね」