水泡にkiss

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杉田はがっくりと肩を落とした。陸上競技日本選手権。オリンピック出場をかけた最後のレース。杉田は100m走に出場し、0.01秒差で日本代表の座を逃した。
大学を出て実業団に加入してから早5年。年齢的にも最後のチャンスと思って、厳しい練習を続けてきた。その努力は報われなかった。
「……努力は『水の泡』ってやつだな。」
杉田はそうつぶやいて空を見上げた。
「あら、わたしは好きよ、泡」
妻が杉田の肩に手を置いて言った。
「だってきれいじゃない、泡って。透きとおっていて、きらきらしていて。たとえはじけて消えてしまったとしても、その一瞬のきらめきはだれかの心に残るものよ」
杉田は胸の奥がじわっとあたたかくなるのを感じた。
「さ、家に帰りましょう。ずっとがんばってきたんだし、今日くらいは黄金の泡を楽しみましょう」
杉田のほほに、妻のくちびるがふれた。報われなかったけど、努力を重ねてよかったと思った。
青春
公開:24/07/31 09:28
更新:24/08/26 20:59

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