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夏は早く起きて、ブラックベリーの実を摘む。涼しげな青い琺瑯のボウルを抱えて、三十秒でどれだけ採れるか、数えるのが密かな楽しみ。昨日は七粒、今日は八粒。集めた実は丁寧に洗い、冷凍庫へ。秋が始まる頃、まとめてジャムにする予定。

木陰から這いでたトカゲに少し驚いてよろめくと、枝に絡め取られた泡風船を見つけた。見上げればいつでも漂っていた虹色の泡風船。いっとき流行り、誰に届くかわからないけれども、聞いてほしい言葉を閉じ込めて飛ばしたのだ。かくいう私も、専用の石鹸をせっせと泡立てて、ひとつだけ空へ送った。どこかの誰かに、指で弾いてほしかった。

さびしいわ。とても素敵なキルトができたのに、あなたに見てもらえないなんて。

そう吹き込んだ声を、自ら聞くことになるなんて。
飛ぶことさえできなかった言葉を噛み締めながら、今年の冬は暖かければいいのにと願った。キルトは箪笥の奥にずっとしまっていたい。
その他
公開:24/07/29 12:51

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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