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詩歩子のことを考えていた。夕方に、髪に手をやる後ろ姿のイメージが浮かんで、それからもっと詩歩子のことを考えようとしていたらオフィスで雑事にまぎれてしまった。
会社を出ていつもの混雑する電車で週刊誌の吊りポスター広告をみているうちに詩歩子の声をおもいだした。その喋り方も間の取り方も。笑いをまじえた明るい声。とりとめのない話をする詩歩子の指は遊んでいた。
乾いた路面をこつこつと歩く詩歩子の足取り。そのリズムが頭のなかで繰り返す。
詩歩子の髪の毛を一本、持っている。二人でハイキングに行ったときのこと、帰ってからぼくのタオルに一本の髪の毛がついていた。汗を拭くのに貸した覚えはない。詩歩子の髪の毛がはらりとタオルに舞い降りたのだ。髪の毛を小箱に入れた。久しく小箱をみてはいないが、捨ててはいない。部屋のなかにあることは確かだがどこにあるのかわからない。そういうものが一つくらいあってもいいじゃないか。
その他
公開:24/07/26 09:39

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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