泡アワー

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異国を旅していると、小さな村に迷い込んだ。少し休んだらすぐに発つつもりだったが、今夜は満月で泡アワーがあるから、ぜひ見ていくといいと勧められた。

「シャボンテンがいっせいに泡を吹くんだよ。それはもう幻想的でね、日頃の悩みが弾け飛んでしまうのさ」

村は荒野に包囲されている。そこにシャボンテンがところ狭しと自生している。のっぺりした緑色の図体に無数のトゲを備えた彼らが、私は心底憎らしかった。奴らが無駄に多いせいで道を誤ったからだ。
とはいえ、シャボンテンから作った酒は大層美味いらしい。広場で行われる観測会で振る舞われると聞き、一泊を決めた。

村人はみな友好的だった。おかげで退屈せずに黄昏れ時を迎えた頃、泡アワーが始まった。白銀色の満月が母ならば、シャボンテンから生まれた泡は子だった。天空の母の御下、旅立つ子らの姿を見守りながら、帰るに帰れない故郷を思った。涙混じりの酒は、苦く舌に残った。
ファンタジー
公開:24/07/25 09:53
更新:24/07/25 10:01

いちいおと( japan )

☆やコメント、ありがとうございます✨

作品の画像はかんたん表紙メーカーやibisPaintで作成しています。

★清流の国ぎふショートショート文芸賞に入選いたしました。作品集に載せていただけるそうです。楽しみです(*^^*)
 

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