アイカギのアワカギ

鍵屋さんが来て洗濯機を回した。
「今、泡鍵作ってくれるから」
そう言ってママも仕事に行った。
少しして音がブクブクからジャラジャラに変わり、鍵屋さんが両手いっぱいの鍵を持ってきた。
私が合鍵を無くしたりしたから、多めに作る事にしたのかな。

部屋の外に出ると、建物の階数や部屋数が増え始めた。
「鍵が増えるという事は、その扉の数も増えるという事だよ」
「じゃあ、その扉の先も？」
どの部屋からも、洗濯機の音が聞こえた。

誰も私を見つけられなくても、淋しくはなかった。
それより夜景を眺めるのが楽しみだったから、上を目指し続けた。
ずっと…。

ドアを叩くと解錠の音が聞こえ、開くと屋上ビアガーデンが催されていた。
「もう飲める歳になったね」
鍵屋さんがグラスにビールを注いでくれた。
やがて音がシュワシュワからジャラジャラに変わり、私は周囲を見渡した。

それから夜空は、乾杯の声で埋め尽くされた。