良く消える消しゴム

文具屋で良く消える消しゴムを買った。店主によると、「消えすぎてやめられないほど」だそうだ。そんなに良く消えるのだろうか。ちょっと試してみよう。そこらに散らばった紙を手に取り、適当に「紙」と書いて消していく。すると不思議なことに、その文字を消すにつれて紙自体も薄くなっていく。消し終わると、紙は跡形もなく消えて無くなっていた。それだけではない、家中にあった紙も全て無くなっていた。テレビを付けると、世界中の紙が一瞬にして消え去ったと速報が流れていた。
どうやらこの消しゴムは、文字だけでなくその文字が指すものまで消してしまうらしい。
それで私は、あることに気が付いた。仕事。手が勝手に動き出し、暗い部屋の壁に私の上司の名前を書きだす。頭の中のサイレンが煩いほど音を立てる。だが、手は止まらない。この考えに気づいてしまった時点で負けなのだ。私は浮かび上がったその文字列を、勢い良く消し始めた。