ヴィナス誕生

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最初はこまかな泡が一つ、またひとつ、いきおいをつけて噴き出してきた。
水中を真珠のような丸みをおびてしだいにふくらみながら浮かび上がってゆく。
途中水圧にあらがうように球体からだえんに、なかには瓢箪のようになかくびれになる泡もある。
じゃれあう仔犬さながら、泡たちには生き生きした生命がかよっているかのようで、いまにもそこからなにかが誕生する予感にわたしの胸は高鳴った。
あるいはそれは、いずれは消えゆくさだめをあわれんだわたしの、泡に捧げるレクイエムというやつだろうか…
もうじき泡たちは、おだやかにたゆとう水面に到達する。
ああ、はかなき泡たちよ、せめてわたしに、ボッティチェリえがくところのあの、輝かんばかりの美につつまれたヴィナスを想像させてはくれないか!
だが泡は、おならのにおいとともに、バスタブから消えた。
その他
公開:24/07/22 23:44

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