お気に入りの家電について

転勤族の父は転勤する前、お世話になった人達を家に呼び、ささやかなホームパーティを開く。
「お世話になった人の最後に見た顔が笑顔だったら、その人の事を思い出す度にあの時の笑顔を思い出すだろう？」
そう言って父は、最後に楽しい思い出を作る。
昔はこの人達を見て、ずっと笑顔でいるなんて、父の別れを悲しまないなんてどうかしている！と、思っていた。
実はこの時、父は除湿機をフル稼働させていた。
湿っぽい空気にならないようにと、除湿機で皆が笑える空気を作っていた。
私も除湿機を借り、クラスの皆とのお別れ会に使ってみる。
笑顔のお別れは、私達の中の悲しみを和らげてくれた。
パーティが終わった後、父は除湿機に溜まった水を会社の上司に売り渡していた。
「あの人、今年定年なんだ。会社を退社する時に、皆に泣いてもらいたいからってあれを加湿機に入れるつもりなんだよ」
父がやり手と呼ばれる理由が分かった気がした。