2
7

三回忌。大のビール好きだった父の仏前で缶ビールをグラスに注いだ。子供の頃、泡の分量にこだわる父にはよくビールの注ぎ方を教わった。でも結局、父と酒を酌み交わすことはできなかった。
傾けたコップを徐々に戻し最後の注ぎでこんもりと泡の層を作ると、そのグラスビールを父の写真の前に置いて部屋の灯を消した。
しばらくしてビールの泡がパチパチと音を立て燐光を放ち始めた。青白く光る無数の泡がゆっくりとグラスを離れ浮かび上がる。まるで宇宙に散った星のビーズみたいに。
泡火と呼ばれるこの現象は、故人の法要の時にだけ稀に起こることがあるらしい。
ーーきっと故人があの世でビールを飲んでいるのさ。
人々はそう言って科学では説明できない現象を好意的に捉えている。
「父さん、僕、成人したよ」そう呟いて缶に残ったビールを飲み干した。すると青白い泡がひとつ目の前に来て静かにはじけ、芳醇な麦の香りが僕の鼻をやさしく撫でた。
ファンタジー
公開:24/07/24 16:15

杉野圭志

元・松山帖句です。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容