プロポーズ

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静かにドアが開いた。圭介がビールを二本、器用に片手だけで摘んで入って来た。この部屋には窓は無い。暑い夏の夜だった。エアコンの駆動音が静かに響き、冷気が身体の熱を奪っていく。圭介がビールをテーブルに置くと天板が白く結露した。良く冷えているらしい。私は「おかえり」とだけ言った後で少し素っ気なかったかな、と思い、「暑くて大変だったね。お疲れ様でした。」と付け加えた。それから気怠そうに乾杯しあった。ビールを飲みながら、圭介は無言、私はスマホ。二人の間に会話はない。お互いに近づき過ぎて慣れてしまったのだろう。もうトキメキなどというものは無くなって久しい。遠くで花火が上がっている。花火の音を聞きながら、二人、其々の時間を過ごしていた。ふと、圭介が呟いた。「結婚しようか。」私はスマホを見ながら「うん、良いよ」とだけ言った。それから、私は片方の欄が空白の皺くちゃの婚姻届をテーブルに置いた。8年は長かった。
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公開:24/07/24 00:12
更新:24/08/17 08:53

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