蕎麦が死んだ日

今日の昼、蕎麦屋に入った。
注文を待つ私の近くにはざるそばを食う二人の若い男。ふいに、若い男Aのスマホが鳴る。
「はい。もしもし」
Aはスマホを持ち、店の外へと出ていく。残された若い男Bは黙々と蕎麦を食う。
暫くして、Aが戻ってきた。Bは蕎麦を食べ終え、スマホをいじっている。
食事を再開しようとしたA。そのAにBはこう言った。

「その蕎麦、死んでいるぞ」

私はそれを最初、食通的な意味かと思った。
蕎麦の風味が失われたとか、食べ方の事を言っているのかと思った。
違った…
Aはそばつゆを手に持ち、中に残っていたそれを箸で掴み、こう言った。

「うわっ！マジどざえもんじゃん！」

思わず見てしまった。ぶよぶよになった蕎麦。
ああ…あれは確かに死んでいる。どう見ても死んでいる。
その蕎麦を口にするA。

「うん。死んでる！」

今日の昼、蕎麦が死んだ。
私は偶然にも、そこに居合わせてしまった。