若返り温泉

2
6

お肌のハリやしわに悩む私は、若返ると評判の温泉を訪れた。
立ちこめる湯気の中、深緑の湯には数人の女性がゆったり浸かっている。私も期待を込めて肩まで浸かった。すると、
ポコポコポコ……
細かな泡が体から立ち昇ってくるではないか。
おなら? いや違う。どうやら泡は私の脇腹から出ているらしい。
戸惑いと恥ずかしさでオロオロしていると、着物を着た老婆がやってきた。
そして泡を確認すると、手にしたポンプを私の脇腹に差し込んだ。
「いちにのさん」
シュポ。何かが体に入ってくる。その瞬間、肌に弾力が戻った。
「これでよし」
老婆は懐から丸いシールを取り出すと、私の脇腹にペタリと貼った。パンク修理みたいに。
「あ、ありがとうございます」
「欲張っちゃいけないよ。大変なことになるからね」
その時、露天風呂の方からパンと乾いた音が聞こえてきた。
「あーあ、裂けちゃった」
老婆はニヤリと笑うと去っていった。
その他
公開:24/07/18 01:16
更新:24/08/23 01:07

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』をつむぎ書房より出版
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテストにて「かぞくしんぶん」が特別賞に選ばれる
2024 第20回坊っちゃん文学賞にて「鯉のぼり」が佳作に選ばれる

発表し合える環境に感謝します。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容