海の泡

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グラスにビールを注ぐ。
たくさんの小さな泡がグラスの下から上へとゆらゆら上昇していく。
まるで生き物みたいに。
その泡がグラスの上にたまり、琥珀色の液体を閉じ込める。
泡を眺めていると、思いだすのは彼女のことだ。

彼女に出会ったのは海水が冷たい春の海だった。
まだ冷たい海水に、女性がぷかぷか浮かんでいた。
振り向いた彼女と目があった。
彼女を好きになるのに時間は要らなかった。

「ママは海の泡になったんだよね」
幼い娘が琥珀色の液体と泡を眺めながら、つぶやく。
「そうだよ」
彼女は、この子を産むのと引き換えに海の泡になって消えてしまった。

窓から爽やかな風が吹きこんできた。
優しく、僕と娘の頬をなででいく。
彼女は海の泡になった。そして、風になって戻ってきた。
ファンタジー
公開:24/07/20 13:45
更新:24/07/20 13:47

かのこ

最後まで読んでくださった方、感謝!

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