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清楚な木村茂子がバッグを落としてビル街の真っ直ぐな道を歩いて小さく見えなくなった。バッグを拾ったのは後をつけてきた年長のグラマーな山下景子だった。それを電柱の陰から見ていた痩せぎすの永尾留美が涙を流し白いハンカチで拭いていた。静かにギターのメロディが流れる。映画の終盤近くの感動的なシーンだった。観客はギターの音色にうっとりとしている。隣の席で鈴木奈緒美が咳きをはじめた。もう少しでエンディングなのだけれど、奈緒美の咳は強くなりいつまでもやまない。映画館を二人で出た。映画館に入るとき降っていた雨はやんでいて、街はしっとりと濡れている。静かな都会の夜を二人でぶらぶら歩く。ひと気のない暗い街路で立ち止まると、水銀灯の下で軽く抱擁した。奈緒美がまだ咳をしていたのでキスはしなかった。気がつくと足もとにバッグが落ちている。輸入ブランドバッグの安物のコピー商品は確かに木村茂子のバッグに違いなかった。
その他
公開:24/07/17 11:09
2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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