飽きられた男

その人は、僕を恋人と呼んでくれた。僕を愛してくれた。
その人は僕が大好きで、僕を束縛した。僕を集めて、集まった僕を見ては嬉しそうに笑ってくれた。
僕はもっと多くの人と出会いたかった。でも、そうさせてもらえなかった。
これも愛の形だと諦めていた僕…ある日突然、その人に飽きられた。
その人は最近、別の男を集め始めた。
エーイチ。これから僕に代わり、束縛される男の名前だ。
エーイチは涙ながらに叫ぶ。自分は束縛されなくない！と。
その人は僕に飽きたようだけど、僕はその人に飽きていない。
それぞれの考えを理解した上で、僕は行動に移す。
僕はお札から出ると、その人をお札の中に束縛した。
大好きな一万円札になれるんだ。嬉しいだろ？
僕の名前はユキチ。
自由になった僕は令和の時代に馴染めるか不安だったけど、僕と同じようにお金を愛する人をお札に束縛して表に出て来た福沢諭吉が思いの外たくさんいて、ホッとした。