春の野にケロケロ

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遠距離恋愛の彼とはたまにしか会えない。今日は久々のデートだったけど、別れ際はどうしようもなく寂しい。
「いつでも会えたらいいのになー」
「春の野にすみれ摘みにとこし我ぞ野をなつかしみ一夜寝にける」
彼が空を見上げて呟く。
「なに?」
「山野辺赤人という歌人の和歌だよ。春の野に、すみれを摘もうと来たんだけれど、美しい野辺の様子に心をひかれたので、一晩を野で過ごしてしまったという意味」
「よく知ってるねぇ」
彼の博識ぶりに関心する。
「俺は、春も夏も秋も冬もすみれなつかしみ一生共にケロって感じ」
「なにそれ笑」
「現代語に訳す?」
「ほぼ現代語だけど笑」
「春も夏も秋も冬もすみれに心ひかれて仕方ないんで一生一緒にいたいケロ」
「あはは照れる」
「てか、これプロポーズ」
彼がポッケから小さな箱を出して開けた。
「うそ!指輪?困る」
「困る?」
「うん、だってカッコ良すぎてずっと側にいたいケロ笑」
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公開:24/07/07 20:30
#SSGすみれ祭り

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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