模様文字

”なあ、お前。俺が読めるんだろう？”
壁の模様が私に問いかけてくる。私はそれに気付かないふりをする。
壁の模様は私以外には模様にしか見えない。
私だけが模様が文字のように読めてしまっている。
壁だけではない。あらゆる模様が私に話しかけてくる文字になる。
得体のしれないそれが怖くて、模様の私は文字を無視する。これは関わっちゃいけない奴だ。
徹底的に無視を続けていると、模様もやっと諦めてくれたのか話しかけてこなくなった。模様はただの模様に戻った。
故に油断してしまった。
先程、居酒屋のメニューに『冷やし中華始めました』の文字を見つけ、それを注文した。
「ウチは冷やし中華やってないよ」
店主の言葉にもしやとメニューを見直す。それは誰の目にも文字に見えなくもない模様だった。
”やっと読んでくれたな。嬉しいよ”
模様が文字へと変わる。思わずメニューを持つ手に力が入る。
模様が、にんまりと笑った。