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地元の人々に愛された百貨店が、創業七十周年を目前にして閉店することになった。かつては家族連れで賑わったものだが、近頃はめっきり来店客が減り、空きテナントだらけになっていた。来るべき時が来たのだとは思うがやはり寂しい。閉店セールでごった返す前にと訪れ、屋上で昼食をとることにした。声をかけられたのは、ベンチに座った時のことだ。
「人間よ、聞いてくれ」
人間に人間と話しかける人間はまずいないので、真っ先に角のお宮に目をやった。昔はきれいに祀られていたが、今は蜘蛛の巣が張り、柱も壊れている。そこに、向こう側が透けて見えるキツネがいた。
「なんでしょうか?」
「最後にいなり寿司が食べたい」
「そんなこともあろうかと、地下の売り場で買ってきました」
「それはありがたい」
キツネはたいそう喜んだが、やがて静かに消えてしまった。百貨店の隆盛と衰退に自らの人生を重ねながら、いなり寿司を味わった。
「人間よ、聞いてくれ」
人間に人間と話しかける人間はまずいないので、真っ先に角のお宮に目をやった。昔はきれいに祀られていたが、今は蜘蛛の巣が張り、柱も壊れている。そこに、向こう側が透けて見えるキツネがいた。
「なんでしょうか?」
「最後にいなり寿司が食べたい」
「そんなこともあろうかと、地下の売り場で買ってきました」
「それはありがたい」
キツネはたいそう喜んだが、やがて静かに消えてしまった。百貨店の隆盛と衰退に自らの人生を重ねながら、いなり寿司を味わった。
その他
公開:24/07/04 11:03
☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。
清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選
ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)
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