名画でショート020『タデウシュ・ド・レンピッキの肖像』(タマラ・ド・レンピッカ)

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絵を描き始めるときから、別れの予感はしていた。
モデルは夫であり、恋人であり、ダンディズムの塊でもあった。ルックスもスタイルも良い上に、職業は弁護士という誰もがうらやむ彼。
そのような彼を、幾多のライバルを蹴り飛ばし、私はサザビーズのセリで落とすようにして獲得した。
夫は私の大切な宝物。私は、夫を自宅の額縁に飾るように扱った。
だから、別れの予感が漂い始めたときに、絵を描き始めた。
夫が私の額縁から出て行ってしまうかもしれない。別の女の額縁に収まってしまうかもしれない。
だから、私は夫を描いた。描いて、描いて、描き続けた。
だが、左手だけは完成させることができなかった。
結婚指輪がはまっているはずの、左手。
もう私は、夫の左手を思い出すことができない。
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公開:24/07/03 17:36

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