律儀な強盗

「Ａ１ですか、その大きさは扱ってなくて」女性店員は答えた。
「馬鹿言うな、Ａ１の紙が一番大きい。出せ」サングラスにマスクの男は言った。
「Ａ４サイズのコピー用紙ならありますけど」
「コレが見えないのか」男が右手に持つ黒い何かをかざした。女性にはぼやけて太めのサインペンのように見えた。
「すみません、コンタクトがズレちゃってなおそうと取った所で。今、全然見えないんです。閃いちゃって書き留めたいですよね。芸術家の方ですか」
「もういい！」出ていく男は日本語ではない言葉を吐き捨てた。

「本当に強盗だと気づかなったのですか」警察官に女性は首を横に振る。
違う店の強盗で捕まった犯人の供述を元に女性の店にも聴取に訪れていた。
「日本人じゃないのは分かりましたけど…」
「それが相当律儀な強盗だったみたいで、今日から新紙幣が開始されたでしょ」
「そうでしたっけ」

「栄一を出せって言ったそうなんですよ」