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「結婚してください」
プロポーズの言葉と一緒に、彼がくれたのは貝殻だった。
青紫の宝石でできた、薬指の爪ほどの可愛い品だ。ダイヤの指輪じゃないのか……と、少しだけへこんだ。
「ありがとう。よろしくお願いします」
上手く喜べたつもりだったけど、彼は少し困った顔で、
「菫青石(きんせいせき)という船乗りのお守りだよ。光の角度で色が変わるから、昔は羅針盤代わりに使われてた」
足元の砂に指で『菫青石』と書き、彼は私の掌ごと、貝殻を太陽にかざした。
菫の花みたいな青紫が水の様に透き通り、中に金の磁針が見えた。針の先は北でも海の彼方でもなく、真っ直ぐ彼の胸を指していた。
「宝石言葉は『道標』。たとえ地球の裏側にいても、いつも君を思うし、必ず君の許に帰って来る」
胸ポケットから出した懐中磁針を掲げ、私に向いた銀の針を示して笑う。
明日外洋に発つ彼の、眩しいほど白い制服に、行ってらっしゃいの敬礼をした。
プロポーズの言葉と一緒に、彼がくれたのは貝殻だった。
青紫の宝石でできた、薬指の爪ほどの可愛い品だ。ダイヤの指輪じゃないのか……と、少しだけへこんだ。
「ありがとう。よろしくお願いします」
上手く喜べたつもりだったけど、彼は少し困った顔で、
「菫青石(きんせいせき)という船乗りのお守りだよ。光の角度で色が変わるから、昔は羅針盤代わりに使われてた」
足元の砂に指で『菫青石』と書き、彼は私の掌ごと、貝殻を太陽にかざした。
菫の花みたいな青紫が水の様に透き通り、中に金の磁針が見えた。針の先は北でも海の彼方でもなく、真っ直ぐ彼の胸を指していた。
「宝石言葉は『道標』。たとえ地球の裏側にいても、いつも君を思うし、必ず君の許に帰って来る」
胸ポケットから出した懐中磁針を掲げ、私に向いた銀の針を示して笑う。
明日外洋に発つ彼の、眩しいほど白い制服に、行ってらっしゃいの敬礼をした。
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公開:24/07/03 00:18
#SSGすみれ祭り
菫青石(きんせいせき)
別名アイオライト。見る角度で
色が変わる多色性を持つ
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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