巡街の手記より【!.wav】蜘蛛と前世

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「蜘蛛の糸」という作品でもあるように蜘蛛というのは案外と義理堅い者が多いようだ。
机上にいるコバエトリグモもどうやら前世の縁を感じてここへ来たらしい。私には全く思い当たる節は無いが。
名を聞くと呼ぶ名は無いと言うので黒点という名をつけた。
黒点の言うに前世では戦場を駆ける兵士の一人であったらしい。戦況が悪化し死地に逝くことになったところを前世の兄である私が逃がしたのだという。その後、往生するまでは健やかながらも心残りの日々を重ね、こうして転生後私のところにやってきたそうだ。
「という事で私は今世では兄者を守りたいのです」と言っている。正直不安だ。知らぬ間に潰してしまいそうで。
「事情は分かった。寛いでもらえるかはわからないが、ゆっくりしていってくれ」とハンカチを広げ適当な文具を家具に見立て置いた。黒点はお辞儀をしてお構いなくと言ったが、そうでもしないと見失う自信がこちらにはあるのだった。
SF
公開:24/07/06 17:24

あいはみと

最近始めました。
まだ勝手がわからないので探り探り。
短い話の掛け合いで関わり合う物語が出来たら面白いかなと試行錯誤中。

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