吾輩は猫又である

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『吾輩は猫である』の原稿には、誤字があると言われている。『猫』の田の部分が、由になっているからだ。しかし私は知っている。漱石殿があえてそう書いていたことを。なぜなら私は――。
「猫ちゃん、また遊びに来たの〜?」と呼びかけてきたのは、最近、餌をくれるようになった田中先生だ。眉間にシワを寄せながらパソコンと向き合い、原稿を作っている小説家である。私は彼に漱石殿の面影を重ねながら、好きでもないマグロ味の猫缶をうまそうに食べてみせる。
「猫は本当にかわいいねえ。僕の生きがいだよ」
私は本物の猫らしく、ニャアと鳴いてすり寄った。額と背中を撫でられ、満更でもなさそうに喉を鳴らす。しかし長居は無用だ。すぐに田中先生の元を離れ、壁に飛び乗った。
「もう行ってしまうんだね。猫は自由でいいなぁ」
漱石殿もよくそうつぶやいていたものだ、と懐かしみながら、次のお宅訪問に向かった。
ファンタジー
公開:24/07/06 13:53

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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