すみれ文庫

僕は落ち込んだとき、すみれ文庫に立ち寄る。すみれ文庫はショートショートガーデンの片隅にあるブックカフェだ。このガーデンには、他にもたくさんの作家が軒を並べている。
ドアを開けるとスイートバイオレットの香りに包まれる。席に着くと、アイコンのリスが珈琲を淹れてくれる。僕はデビュー作「そば屋」からのファンだ。本棚には、すみれさんの作品が脈絡と並んでいる。どの本も書き出しから世界観に引き込まれ、魅了される。僕は文具を使った作品が好きだ。幻降用紙、縁筆、満念筆、化しゴム、愁晴テープ、などがある。
店内にコメントポストがあり、訪れた読者がコメントを投函できる。
リスが僕の耳元で囁いた。スクープだ！ 嬉しいはずなのに、どこか寂しさを隠せないまま、僕はコメントポストに投函した。

『ご結婚おめでとうございます！ お幸せに』

リスが淹れてくれた珈琲を見つめる。珈琲の黒い闇に、僕の切なさは溶けて消えた。