紫折（しおり）

引っ越し準備で部屋の片付けをしていたら、本棚の奥から古いシャボン玉が出てきた。
そういえば昔、宿題の途中で栞代わりにはさんだっけ。赤、橙、黄、緑、青、藍――おしまいの紫で色が止まったシャボン玉は、使いかけの学習帳の間でぺちゃんこにつぶれ、変形してすみれの押し花みたいになっていた。
「窮屈だったでしょう。長い間ごめんね」
割れてしまわなくて良かった。ページからそっとつまみ上げる。シャボン玉はぺちゃんこのままヒラヒラ浮かび、段ボールで散らかった部屋をしばらく漂った後、開けた窓から遠くの空へ飛んで行った。


「これって仕返しかな。それともお祝いなのかな？」
背中を丸めてお昼寝していたチワワのひかりが、学習帳のページをふんふん嗅ぎ、『さあ？』と言わんばかりに頭をかしげた。

結婚した彼との新居へ送るため、荷造りしていた段ボールの山は、シャボン玉の通った跡が一面に移り、すみれ色の花畑になっていた。