レインコート

私は泣き落としという奴に凄く弱い。
相手に泣かれると、無茶な要求でもすぐに飲んでしまう…それで会社に迷惑をかけた事は数知れず…はぁ…私ってば、営業に向いていないのかな…
落ち込む私に先輩が「今度から商談にはこれを着ていけ」とレインコートを貸してくれた。
何で商談にレインコート？訳が分からないが、とりあえず今日の商談に早速着ていこう。

「お願いします！この額でやってくれないと、当社は潰れてしまうんです！どうか！どうかこの金額の８割引きでお願いします！」
今日の商談相手、私の出で立ちに一瞬驚いたものの、すぐに気を取り直し、目に涙を浮かべ懇願してきた。
今までの私ならその姿に、条件を飲んでいただろう。
だが今日の私は違う。泣き落としの涙をレインコートが弾いてくれる。だから商談相手の涙を見ても何も感じない。
それどころか、透明のレインコートのおかげで相手の言葉が見え透いた嘘だとすぐに分かった。